第1章

1-3 カナダの高校の教育水準と留学事情

日本からカナダへの高校留学は2023年度で1,000人ほどで、高校の留学先 (3ヶ月以上) としては、アメリカやイギリス、ニュージーランド、オーストラリアを抑えて1位となっています。「カナダ 教育」と検索すると、多くの留学エージェントのウェブサイトが上から並びます。そこにあるカナダへの留学を薦める理由としては、カナダの治安の良さ、比較的リーズナブルな学費、と並んで高い教育水準と書かれていることが多く見られます。カナダの治安については、 カナダの治安は本当に良いのか – 『カナダ留学論』 に書きましたし、学費に関しては別の記事で説明したいと思います。今回は、カナダの高校の教育水準について考えてみたいと思います。

| カナダの教育水準の客観的な評価

客観的な指標の一つとして参考になるのが、OECDが実施するPISA (学習到達度調査) でしょう。この調査は15歳での数学、読解力、科学の3分野で学力を測定する国際的なテストで、2022年の最新の調査結果によると、確かにカナダはいずれもOECD平均を上回っており、英語圏の主要国の中ではすべてでトップクラスに位置しています。しかし、全体ではカナダは8位であり、1位からシンガポール、マカオ、台湾、そして、日本とアジア圏の国が並んでいます。次に、OECD Better Life Index 教育指標ランキング (最新 2022年) も見てみると、カナダは10位と、こちらも英語圏ではオーストラリアに次いで2位ではありますが、上位には主に北欧圏の国が並んでおり同じく微妙な位置にいます。

カナダの公立高校教育は州や学区ごとに違いがあるとしても、「カナダは教育水準が高い」という表現は英語圏の中での相対的な評価としては正しいですが、日本を含む非英語圏の先進国も比較対象として入れた場合には必ずしも当てはまるわけではないという結論が見えてきます。G7などの先進国であれば、一般的にどの国も義務教育を通じて基礎的な学力を保障する体制が整っていると思われます。純粋に教育水準だけを見た場合、日本からわざわざ多大な費用をかけてカナダに留学する理由にはならないと考えるのが妥当ではないでしょうか。

| カナダと日本との比較

前述のOECDが実施するPISAの結果では、日本の成績はカナダと比較すると全分野で日本が上回っています。PISAの結果だけを見れば、日本の教育は基礎学力の定着において非常に効率的で、特に数学や理科における論理的思考力の育成にも定評があります。日本の教育についてレベルが低いとする論調をたまに見かけますが、このような客観的なデータも見ておくべきでしょう。

一方で、カナダの教育には日本にはない長所が存在します。プレゼンやディスカッション、グループワークを重視する授業スタイルは、自分の意見を論理的に主張する力を養うことが出来ると思います。オピニオンエッセイの執筆を通して、論理的な文章構成力や批判的思考力が鍛えられます。これらのスキルは北米の大学では必須とされているため、事前にカナダで習得しておくことで北米大学への進学に利することにもなります。さらに、選択科目に多様性があり画一的な知識の詰め込みよりも、個人個人の学びを重視する姿勢がうかがえる面もあります。

| 高い教育レベルを求めるなら

前述の通り、カナダと日本の教育水準にそれほどの違いがありません。もし、高いレベルの教育を求めるのであれば、どの国に行くかではなくどの教育規格で学ぶかを考えるべきでしょう。IB (国際バカロレア) やIGCSE (ケンブリッジ国際中等教育資格) は、ここでは詳細は説明しませんが、世界中で認められた国際的な教育規格であり、どの国の学校であっても一定水準以上のカリキュラムと評価基準が保証されています。これらのプログラムを提供する私立の高校は、カナダにもアメリカにもイギリスにも日本にも、そして、マレーシアのような学費や生活費のコストパフォーマンスの高い国にも存在します。本当にアカデミックな面を充実させたいのであれば、先ずはこれらの教育規格について調べ、それを提供する学校を探すというアプローチが合理的でしょう。

| カナダの公立高校の留学事情

次に、カナダの公立高校における留学事情についてです。基本的に学力や英語力を問わずに入学できる学校が多く、学校を指定しなければいわば誰でも入れる状態になっています。これは門戸が広いとも言えますが、裏を返せば、学力の高い地元の生徒が私立や他の比較的評価の高い学区の公立に流れた後の空きの多い学区の公立に入れられてしまうことが起こり得ます。例えば、ブリティッシュコロンビア州 (以下 BC州) のバンクーバー周辺であれば、ウエストバンクーバーやノースバンクーバーなどの人気学区の定員は早期に埋まると聞きますし、実際にバンクーバー学区の評判の良い公立校も留学生の募集は半年前で既に終了していたことがありました。話は少し逸れますが、BC州で公立校などの評価の見方はいくつかあり、州が直接公開しているGrade10/12の州試験や卒業率などのデータ、賛否両論あるFraser Institute (高校のデータ更新は2019年で止まってます) 以外にも学校情報専用の口コミ・レビューサイトや地域ニュースなど情報の取り方はさまざまです。これらはまた別の記事で話したいと思います。

前述のBC州が出している統計によれば、公立高校全体の卒業率は91.4% (2021-22年度) で、正規のドッグウッドディプロマ (カナダの大学進学時に正式な高校卒業として認められる資格) を取得して卒業した生徒は87.7%に留まります。州試験で落第する生徒が一定数存在するのが現実です。英語が不十分な学生に対してESL (English as a Second Language) サポートがある程度充実していることも事実ですが、現地の情報に比較的疎い留学生は誰でも卒業できるわけではないという環境の中、卒業までの道筋を自分で確認を繰り返しながら進んでくしかありません。穿った見方をすると、よく分からないうちに評判の悪い学校を勧められ、入ってみても英語の勉強ばかりで本来の学習に常に遅れを取り気が付いたら卒業すら覚束ない、ということも確率的にあり得るのです。当たり前のことですが、人任せにせずに自分で情報をしっかり取得して理解することが肝心です。つまり、常に最悪のケースを想定してそれらを潰していくということです。

最後に、これまで一般的な話をして来ましたが、私自身としては、別記事の なぜカナダ留学なのか – 『カナダ留学論』 で書いた通りの理由でカナダ留学を勧めています。しかし、だからと言ってすべての方に高校からの留学を勧めているわけではありませんし、高いレベルの教育に拘る必要もないとも思っています。現実を見ながら自分は何を求めて留学するのか、その目的を明確にした上で冷静に選択肢を比較検討することが大切です。そして、上記の別記事にもある通り、その目的とは、目先のものではなく大学進学や就労まで視野に入れて先の先を見据えて判断しましょう、というのが一貫した主張になります。

カナダ留学論

第1章 カナダ留学について

 1-1 なぜカナダ留学なのか
 1-2 カナダの治安は本当に良いのか
 1-3 カナダの高校の教育水準と留学事情
 1-4 留学エージェントの使い方